エクストーンの豊田です。Webアプリケーションの開発においてバックエンドチームがAPIを作成し、フロントエンドチームがそのAPIを利用してシステムを構築を行うような開発プロセスが私たちのチームでは頻繁に行われています。その中で、OpenAPIを積極的に活用しているプロジェクトの事例を紹介したいと思います。OpenAPIの定義を作成することで得られる具体的なメリットと、実際の活用方法について共有したいと思います。
OpenAPIとは
OpenAPIはRESTful APIを記述するための標準仕様です。JSONまたはYAML形式でAPIの仕様を定義することで、API設計の一貫性を確保し、様々なツールによる自動化が可能になります。
仕様を厳密に定義することで、チーム間でAPIに対する理解の齟齬がなくなるというメリットが大きいですが、その他、OpenAPIを利用した以下のようなプロセスの自動化によって、私たちのプロジェクトで大きな効果をもたらしています。
- ドキュメントの自動生成
- モックサーバーの作成
- クライアントライブラリの自動生成
それぞれについて、具体的な実装方法とともに解説します。
1. ドキュメントの自動生成(Redoc)
APIドキュメントの作成と維持は、開発者にとって悩ましい作業です。特に頻繁に開発・更新が行われるプロジェクトでは実装とドキュメントが乖離していくことが頻繁に発生します。OpenAPIを使えば、仕様書からドキュメントを自動生成できるため、APIの仕様をOpenAPIで定義するという最低限のルールさえ徹底しておけば、ドキュメントはその仕様に追従して常に最新に保つことが出来ます。
Redocを使ったドキュメント生成
Redocは、OpenAPIの定義ファイルから美しく使いやすいドキュメントを生成するツールです。以下の手順で簡単に導入できます。
まず、OpenAPIの定義ファイル(openapi.yaml)を作成します:
openapi: 3.0.0 info: version: 1.0.0 title: サンプルAPI description: これはサンプルAPIのドキュメントです paths: /users: get: summary: ユーザー一覧を取得するAPI responses: '200': description: 成功時のレスポンス content: application/json: schema: type: array items: type: object properties: id: type: integer example: 1 name: type: string example: "山田太郎"
次に、Redocを使ってHTMLドキュメントを生成します:
# Redoc CLIをインストール $ npm install -g redoc-cli # HTMLファイルを生成 $ redoc-cli bundle openapi.yaml --output docs.html
開発中に継続的にドキュメントを確認したい場合は、サーバーモードが便利です。
$ redoc-cli serve openapi.yaml --watch
-watch
オプションを付けることで、ファイルの変更を検知して自動的にドキュメントが更新されます。これにより、仕様変更の度にコマンドを実行する手間が省けます。
メリット
- 常に最新のドキュメントを維持できる
- 美しく見やすいインターフェース
- エンドポイント、パラメータ、レスポンスなどが整理されて表示される
- HTML形式のため、S3やGitHub Pagesなどで簡単に公開可能
2. モックサーバーの作成(Prism)
フロントエンド開発とバックエンド開発を並行して進めたい場合、バックエンドの開発が追いついておらず、フロントエンド側が実際にAPIをリクエストして開発をすることが出来ないことが発生します。この事態を回避するためには、仕様通りの仮の値を返すAPIのモックサーバーを作成することがあります。Prismを利用することで、OpenAPIの定義からモックサーバーを簡単に作成できます。
Prismを使ったモックサーバーの作成
Prismは、OpenAPIドキュメントに基づいてHTTPモックサーバーを生成するオープンソースツールです。以下のようなpackage.jsonを利用することで、モックサーバーを起動することが出来ます。
{ "name": "prism-test", "scripts": { "prism": "prism mock ./openapi.yaml" }, "devDependencies": { "@stoplight/prism-cli": "^5.12.0" } }
OpenAPIの定義に複数のレスポンス例を用意しておけば、Prefer
ヘッダーを使って異なるレスポンスを切り替えることができます。
# openapi.yaml(複数レスポンス例) paths: /api/users: get: summary: ユーザー一覧を取得 responses: '200': description: 成功 content: application/json: examples: EmptyUserResponse: value: users: [] ManyUserResponse: value: users: - id: 1 name: "John Doe" mailAddress: "john.doe@example.com" - id: 2 name: "Jane Doe" mailAddress: "jane.doe@example.com"
上記の package.json
が存在するディレクトリで以下のコマンドを実行することで、モックサーバーを起動することが出来ます。
# 依存関係のインストール $ npm install # Prismサーバーの起動 $ npm run prism # モックサーバーへリクエスト $ curl -XGET http://localhost:4010/api/users # 特定の例を指定 $ curl -H "Prefer: example=ManyUserResponse" http://localhost:4010/api/users
メリット
- バックエンド実装前にフロントエンド開発を進められる
- 異なるシナリオやエラーケースのテストが容易
- 設計段階から実際の動作確認ができ、早期にフィードバックを得られる
- リクエストとレスポンスの検証により、仕様との整合性を確保できる
3. クライアントライブラリの自動生成(openapi-zod-client)
TypeScriptプロジェクトでは、APIクライアントの実装と型定義の維持が課題となります。openapi-zod-clientを使えば、OpenAPIの定義から型安全なAPIクライアントを自動生成できます。
openapi-zod-clientの使用方法
openapi-zod-clientは、OpenAPIの定義からZodiosベースのTypeScriptクライアントを生成するツールです:
# インストール $ npm install -D openapi-zod-client # クライアント生成 $ npx openapi-zod-client "./openapi.yaml" -o "./src/api/client.ts"
生成されたクライアントは、zodを使った型チェックとランタイムバリデーションを提供します。以下は使用例です。
// 生成されたクライアントのインポート import { api } from './api/client'; // 型安全なAPI呼び出し async function fetchUsers() { const response = await api.getUsers(); // responseは型付けされている const users = response.data; // TypeScriptの型チェックが効く users.forEach(user => { console.log(`Name: ${user.name}, ID: ${user.id}`); }); }
メリット
- 型安全なAPIクライアント
- APIの変更に伴う型定義の自動更新
- ランタイムでのリクエスト/レスポンスのバリデーション
実際の開発ワークフローへの統合
これら3つのツールを組み合わせることで、私たちのチームでは以下のような開発プロセスを実現しています。
- API設計フェーズで OpenAPI 定義を作成
- Redocを使ってドキュメントを生成・共有
- Prismでモックサーバーを構築し、フロントエンド開発を並行して開始
- openapi-zod-clientでクライアントコードを生成し、型安全な実装を進める
- バックエンド実装が完了したら、モックサーバーから実サーバーに切り替え
この方法では、API設計が一元化され、各工程が自動化されるため、開発効率が大幅に向上します。
まとめ
OpenAPIを活用することで、APIを利用したWebアプリケーションの開発プロセスを大幅に効率化することが出来ました。
- ドキュメント、モックサーバー、クライアントライブラリが自動生成されるため、開発工数が削減される
- 仕様の一元管理により、フロントエンドとバックエンドの整合性が保たれる
- 早期からAPIを試せるため、設計ミスの早期発見とフィードバックサイクルの短縮が可能
今回紹介したRedoc、Prism、openapi-zod-clientを利用することで、上記の開発プロセスの効率化を実際に行うことが出来ましたので、皆さんも是非お試しください。
参考リンク
- OpenAPI Specification: https://www.openapis.org/
- Redoc: https://github.com/Redocly/redoc
- Prism: https://stoplight.io/open-source/prism
- openapi-zod-client: https://github.com/astahmer/openapi-zod-client